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2024/07/20 コラム

離婚事件について〜その4 財産分与〜

離婚事件についてのコラムの4回目は財産分与のお話です。

夫婦が離婚したときは、婚姻中に夫婦の一方が得た財産を分与するように求めることができます。(民法768条1項)。
これが財産分与です。
財産分与においては、大きく分けると、①財産分与の対象財産になるか否か、②財産分与の基準時がいつになるのか、③対象財産の評価額をどう決めるのか、④分与の方法をどうするのかといったことが問題になります。

まず1点目の財産分与の対象財産になるかどうかという点に関して、よく問題になるのは「特有財産」の扱いです。
財産分与の対象になる財産は、夫婦が婚姻中に協力して取得した財産です。
この「協力」というのは、個々の財産を取得するときに具体的にどのような協力があったのかを個別に吟味するというわけではありません。
例えば、専業主婦の家庭において、もっぱら夫側の給与収入によって取得した財産があった場合でも、妻側にも給与収入を得るための有形・無形の貢献があったと考えられますので、当該財産も財産分与の対象財産に含まれることになります。

一方、夫婦の一方が独身のときに取得して婚姻中も保有し続けていた財産については、婚姻中に夫婦の協力によって得た財産ではありませんので、財産分与の対象にはなりません。
ただ、注意が必要なのは、婚姻前にローンの契約をして取得した財産について、婚姻後もローンの支払いを続けてきたというケースです。
この場合、財産を取得したのは婚姻前なので、本来的には特有財産ということになりますが、婚姻後に夫婦の協力によってローンの支払いを続けることで、特有財産の維持に夫婦で貢献してきたと考えることができますので、その貢献の割合に応じて財産分与の対象財産に含めて評価することも可能と考えられます。

そのほかに特有財産となる財産の典型例は、親族からの贈与や相続によって取得した財産です。
贈与や相続によって得た財産は、夫婦の協力によるものではなく、財産分与の対象にはなりません。
贈与や相続によって得た財産でよく問題になるのは、贈与や相続によって得た財産と日々の給与収入等が同じ預金口座で管理され、日々の生活費等の支払いに充てられてきたケースです。
このような場合、残っている預金の残高が贈与や相続によって得た財産の残高なのか、給与収入の残高なのかを区分することが困難になり、費消された生活費の額によっては、特有財産の残高は残っていないと評価せざるを得なくなることがあります。
贈与や相続によって得た財産があるときは、日々の生活費を管理する預金口座とは別の預金口座で管理するのが望ましいと言えます。

次に問題になるのは、財産分与の基準時です。
先ほど書いたとおり、財産分与の対象になるのは、夫婦が婚姻中に協力して得た財産です。
そのため、婚姻前に取得した財産は財産分与の対象になり得ません。
では、婚姻後に得た財産はどこまでが財産分与の対象になるのでしょうか。
これが財産分与の基準時という問題です。
夫婦が離婚するとき、離婚成立の前に夫婦の一方が家を出て別居生活を送っていることも少なくありません。
このような場合、別居の時点で夫婦が協力して財産を形成したり、維持したりする関係は終了したと評価されるのが通常です。
そのため、財産分与についても、原則的には別居時を基準として対象財産性や金額を確定することになります。
基準時後(=別居後)に新たに取得した財産は財産分与の対象になりませんし、逆に別居時に存在していた財産であれば、例えば別居後に預貯金を費消してしまったとしても、別居時の金額を基準にして財産分与することになります。

3つ目の問題点は、対象財産の評価額の決め方です。
先ほど、対象財産の基準時は別居時と書きました。
預貯金については、単純に別居時の残高を基準にして財産分与するのが一般的です。
一方、不動産や株式など、時間の経過によって評価額が変動する財産については、別途評価の基準時を定める必要があります。
評価の基準時については、基本的には別居時ではなく、分割をするときとされています。
別居後、離婚協議に1年の時間を要したという場合であれば、基本的には1年後の評価額を基準にして分与することになります。
離婚にあたって不動産を売却する場合には、売却代金からローン残高や売却にかかる諸費用を控除した残金を財産分与の対象にするのが一般的です。

4つ目の問題点は、分与の方法です。
まず問題になるのは分与の割合です。
分与の割合については、特段の事情のない限り、原則的に2分の1ずつとされています。
夫婦が共働きで収入が同等であっても、収入に格差があっても、夫婦の一方のみが収入を得ている場合であっても、家事労働等も含めて、夫婦生活を維持するための貢献度は基本的には平等と評価されます。
特別な資格や能力があることにより、特に大きな金額の蓄財をできていた場合や、夫婦の一方が怠惰により仕事も家事労働も一切してこなかったような場合には、分与の割合を定めるときにプラス・マイナスの評価がされることもありますが、そのような例は多くはありません。

次に問題になるのは、清算の方法です。
預貯金については、単純に基準時の残高を分与の割合に応じて分ければよいだけですが、特に問題になりやすいのは住宅ローンが残っている不動産です。
住宅ローンの支払いが残っており、売却してもローンを清算しきれないケース(オーバーローン)では、基本的にその不動産の評価額はゼロということになりますので、不動産からの財産分与を求めることはできません。
夫婦の一方がオーバーローンの不動産の取得を希望する場合、残っているローンについては取得を希望する側が負担するのが通常です。
一方、夫婦のいずれも不動産の取得を希望せず、売却処分する場合に、残った住宅ローン債務をどう扱うかについては、その他の夫婦共有財産の額や、夫婦の収入によって処理が変わってきますが、住宅ローンの名義人が残った債務を負担することになるケースも少なくありません。

住宅ローン債務が残っていない場合や、不動産の評価額から住宅ローンを控除してもプラスになる場合には、不動産も財産分与の対象になります。
不動産を売却する場合には、売却代金から住宅ローンの残高や売却にかかる諸経費を控除した残金を分割するのが一般的です。
不動産を売却せず、夫婦のどちらか一方が保有し続ける場合には、不動産の査定額からローン残高を控除した金額を代償金として支払うことで清算することがあります。
ただ、住宅ローンの残高が残っている場合、不動産の名義変更の可否や離婚後の住宅ローンの負担者など、複雑な問題が発生しますので、個別の事情を考慮して十分な検討を重ねながら処理を進める必要があります。

財産分与は法的に様々な問題を伴うことが多いので、十分な検討を重ねながら処理を進めていく必要があります。

Copyright © 弁護士 佐藤 敬治(札幌双葉法律事務所 所属)