コラム

2024/01/16 コラム

スキー事故の損害賠償請求

今冬の札幌は雪の少ない12月でしたが、1月に入って一気に雪が増え、いつもの冬らしい景色になりました。
雪が降るのを待ち望んでいたスキーヤー、スノーボーダーの方も大勢いらっしゃるかと思います。
私自身も、大学時代は北海道大学の基礎スキー部に所属していたこともあって、スキーシーズンを毎年楽しみにしています。

 

さて、スキー、スノーボードは楽しいものですが、滑走中に事故に遭ってしまうこともあります。
他のスキーヤーやスノーボーダーの方との衝突事故の場合、過失がある当事者は、相手方に対して損害賠償責任を負うことになります。
それでは、衝突事故における過失の有無はどのように考えることになるのでしょうか。

 

この点について重要な判断を示したのが、平成7310日の最高裁判決です。
この判決では、「スキー場において上方から滑降する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負う」として、上方を滑っている人の注意義務を認めました。
その後、スキー事故についての損害賠償責任について判断した多くの裁判例において、この最高裁の判断が引用されています。

 

もっとも、上方を滑っていた人が全面的な責任を負うとは限りません。
上記の最高裁判決では、事故現場は急斜面ではないこと、事故当時、上方から下方を見通すことができたことを指摘し、上方の滑降者が接触を避ける措置をとる時間的余裕をもって下方の滑降者を発見し、事故を回避することができたと述べています。
したがって、例えば、多くのスキーヤーが高速で滑降する急斜面において、下方の滑降者がコースの真ん中等の危険な位置で予期しえない急停止をしたケースや、上方から見通しにくい場所に下方の滑降者がいたケースなど、上方の滑降者にとって回避が困難であったケースにおいては、異なる判断が示される可能性があります。
裁判例では、下方の滑降者が斜度の切り替わりにより上方から見通しのきかない場所で停止しており、上方から滑降してきた人と衝突したというケースにおいて、下方の滑降者にも一定の過失を認めたものがあります。

 

上記の最高裁の判決のほかに重要な判断基準となりうるのが、全国スキー安全対策協議会が定めている「スノースポーツ安全基準」と、国際スキー連盟が定めている「スキーヤーとスノーボーダーの行動規範」(FISルール)です。
これらの基準には、スキーヤー、スノーボーダーが遵守すべき基本的なルールが定められています。
事故現場の状況、事故発生時の当事者双方の行動から、ルールの遵守状況を確認して、双方の過失を判断していくことになります。


ただ、スキー場の状況は降雪や融雪によって日々変化していきますし、シーズンが変わるとコース自体が変わってしまうこともあります。
そのため、過失割合を適切に判断するためには、できる限り早く現場の状況を確認して保存することが重要になります。
パトロールへの事故状況の正確な説明と記録、ウェアラブルカメラ等によって撮影した映像の保存等の基本的な対応とあわせて、私は実際に現場を目で見て確認することが大事だと考えています。
私が過去にご依頼を受けたスキー事故のケースでは、私自身が実際に現場の斜面まで行って事故が起きたコースの状況を確認し、写真、動画等を撮影して現場の状況を保存しながら過失割合の判断資料としてきました。
このような対応が迅速にできるように、スキー事故の被害に遭ったときはできる限り早めのご相談を強くお勧めいたします。

Copyright © 弁護士 佐藤 敬治(札幌双葉法律事務所 所属)