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2024/01/22 コラム

スキー事故の損害賠償請求その2〜保険のお話〜

前回のコラムで、スキー事故に遭ったときの損害賠償請求について書かせていただきました。
今回は事故による怪我や損害賠償責任の負担に備えるための保険のお話です。

皆様は、保険といえばどのようなものが思い浮かぶでしょうか。
生命保険、医療保険、傷害保険、火災保険、自動車保険など、それぞれの需要に応じて色々な保険に加入されている方が多いかと思います。
スキー・スノーボードの場合、スキー保険やレジャー保険など、レジャーシーンでの事故に特化した保険も用意されています。
ただ、スキー保険に加入しなければスキー事故での補償を受けられないかというと、そうとも限りません。
無駄なく補償を受けるためには、皆様が加入している保険の補償内容を正確に理解する必要があります。

そもそもスキーやスノーボードでの事故にあったとき、必要になる可能性がある補償内容として、どのようなものが考えられるでしょうか。
ご自身が怪我をしたときの治療費の補償、用具が破損したときの用具に対する補償、相手に怪我をさせてしまったときの損害賠償責任に対する補償、バックカントリーで遭難してしまったときの捜索・救助費用に関する補償といったところが考えられるかと思います。


例えば、スキー中に骨折して入院・手術が必要になったという場合、医療保険に加入していれば、入院・手術給付金の支給を受けることができます。
ただ、医療保険は、多くの場合、入院を前提としていますので、通院だけで済むレベルの怪我であった場合には、医療保険では補償を受けられない可能性があります。
通院だけで済む怪我に対する補償を受けるためには、傷害保険に加入する必要があります(名称は保険会社によって異なります)。

それでは、ご自身の不注意によって事故の相手方に怪我をさせてしまったとき、相手方に対する損害賠償責任を補償してもらうためには、どのような保険が必要になるでしょうか。
医療保険や傷害保険は、あくまでもご自身の怪我に対する補償を受けるためのもので、相手方に対する損害賠償責任の補償を受けることはできません。
事故を起こしてしまったときの損害賠償責任を補償してもらうためには、賠償責任保険に加入する必要があります。

賠償責任保険については、自動車保険や火災保険の特約として付けることができます。
スキー事故に限らず、日常生活の中で起きた事故を幅広く補償するものが一般的ですので、例えば子どもが遊んでいるときによその家のものを壊してしまったとか、自転車に乗っていて事故を起こしてしまったケースなども補償の対象になるのが通常です。
スキー、スノーボードの事故は、骨折等の重傷を伴うケースも多く、ご自身に過失があるときの損害賠償の金額は数百万円〜数千万円にまで上ることもありますので、賠償責任に対する備えは万全にしていただきたいと思います。
月額数百円程度の負担で特約を付けられることが多いので、万が一の事故に備えて、個人賠償責任保険に加入しておくことを強くお勧めします。

用具の破損についても、自動車保険等の契約において、携行品補償特約を付けておくことで、補償を受けられることが期待できます。 

このように、スキーに特化した保険に加入しなくても、必要になるであろう補償を受けられる保険は存在します。
それでは、スキー保険・レジャー保険に加入するメリットはどのような点にあるのでしょうか。

スキー・レジャー保険は、スキー事故に伴って必要になるであろうすべての損害を補償の対象にしているものが多くなっています(プランによって補償内容に差があることもあるので、事前の確認は必要です)。
特に捜索・救助費用の補償については、スキー・レジャー保険でなければ補償を受けられないケースも多いので、バックカントリースキーをされる方は、加入を検討していただきたいと思います。
また、スキー・レジャー保険の中には、1日だけの保険や12日分の保険など、補償を必要とするときだけ臨時で加入できる保険もあります。
自動車保険、火災保険、医療保険等に加入しておらず、臨時で補償を受けたいケースにおいては、スキー保険・レジャー保険は有力な選択肢になります。

全国スキー安全対策協議会が公表している「2022/2023シーズン スキー場傷害報告書」によると、スキーヤーの賠償責任保険加入率が27.3%であるのに対して、スノーボーダーの保険加入率は17.3%にとどまっています。
スノーボーダーは比較的若い世代の方が多く、自動車保険や火災保険に加入していない方もいることが影響しているのかもしれません。
また、スキーヤー、スノーボーダーともに、自身が保険に加入しているかどうかわからないという方が約55%いらっしゃいます。

ご自身の保険加入状況を正確に把握して、万が一の事故に備えて、必要な補償を漏れなく受けられるように準備しておくことは非常に重要なことですので、皆様にも今一度ご自身の保険加入状況を見直していただきたいと思います。

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