コラム

2024/04/14 コラム

離婚事件について〜その2 親権のお話〜

前回のコラムでは、離婚するときの手続について書きました。

今回は離婚するときに決めなければならないことのうち、子どもの親権について書きたいと思います

そもそも親権とは何か、イメージが湧くでしょうか。漠然と、離婚後も子どもと一緒に暮らす権利という程度のイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。法律的には、親権というのは、未成年の子の監護・養育を行う権利(身上監護権)と、子の財産を管理する権利(財産管理権)の2つで構成されます。これらの権利は、子の利益のために行使されます。つまり、親権というのは、子の身上監護と財産管理を行う権利であり、親権者は子の利益のために適切にこれらの権利を行使する義務を負うともいえます。

離婚しようとする夫婦に未成年の子がいる場合、父母のいずれかを親権者と定めなければならないとされています。そのため、協議離婚、調停離婚をする場合、離婚すること自体には合意できていても、親権者をどうするかについて合意ができなければ、離婚を成立させることができません。裁判離婚の場合には、裁判所が判決文の中で父母のいずれかを親権者として指定することになります。

親権者を決めるときの裁判所の考慮要素には、大きく分けると、「父母側の事情」と「子ども側の事情」があります。一般的には、父母側の事情としては、子を監護する能力、婚姻中の子どもの監護の状況や実績、離婚後の子の監護に対する意欲、健康状態、経済状態、生活環境(住居、学校等)、親族による援助の可否等の事情を考慮するとされています。子ども側の事情としては、年齢、発育状況、現在置かれている生活環境への適応状況、環境の変化への対応の可否が考慮される他、一定の年齢以上の子どもの場合には子どもの意向も考慮されます。

子どもの意向に関しては、15歳以上の子どもについては、裁判所は裁判に当たって子の陳述を聞かなければならないとされており、ここでの子どもの意思は重視されます。また、15歳未満の子どもであっても、子どもの意向を聞かないわけではなく、概ね10歳くらいの年齢になると、子どもの意思も尊重されるとされています。ただ、子に父母のいずれかを選ばせるということ自体、子に酷な選択を強いることになり得ますので、子の意向を確認するのがよいかどうかという点については、慎重な配慮が必要になります。

その他に裁判実務の中で重視されているとされるいくつかの原則があります。その一つとして指摘されるのが母親優先の原則です。これは、特に乳幼児期の子にとっては母親の愛情を受けることが重要であるから、母親を優先的に子の親権者として指定すべきであるというものです。

実際のところ、離婚事件の圧倒的多数のケースで、母親が親権者と指定されているのが実情かと思います。ただ、母親優先の原則の考え方自体が性別役割分担意識に根ざしている面があり、最近は母親だから、父親だからという単純な理由だけで親権者を決めるのではなく、それまで子の監護に当たって中心的な役割を果たしてきた側が親権者になるべきであるという考え方に変化してきています。子の監護に当たっての中心的な役割を「母性的役割」と表現することもあることから、「母親優先の原則」ではなく、「母性優先の原則」という言い方をすることもあります。ここでの「母性」というのは、必ずしも母親を意味するものではなく、主たる監護者という意味合いになります。

裁判実務の中で、結果として母親が親権者として指定されることが多いのは、特に子どもが幼いうちは依然として母親が子の監護において主導的な役割を果たすことが多いという社会の実情を反映した結果と考えられます。ただ、家庭によってはむしろ父親が主たる監護者としての役割を果たしているケースもあり、そういったご家庭においては父親が親権者として指定されることもあります。結局のところ、ここで重視されているのは考慮要素のうちの子の監護の状況や実績の部分ということになります。

もう一つ、裁判実務の中で適用される原則の一つとされているのが、継続性の原則です。継続性の原則が問題になる典型的な場面は、離婚協議中に父母が別居し、子が父母のいずれか一方と一緒に生活しているケースです。このようなケースにおいて、子が現在の生活環境に適応しており、生活環境を変更すべき特段の理由が見当たらない場合には、子の生活環境の安定を重視して、子と同居している親を親権者とするというものです。別居期間が長くなればなるほど、継続性の原則が重視される傾向にあります。

このような実務の影響を受けてか、別居のために家を出る場合に半ば強引に子を連れて行ってしまったり、逆にいったん片方の親と一緒に別居した子を取り戻そうとして強引に連れ去ったりする事例があると指摘されています。

しかし、家庭内暴力があるケースなど、話し合いを行うこと自体に危険を伴うケースはともかく、そうでないケースにおいて、夫婦間の協議によらず強引に子どもを連れて行った場合、裁判所が継続性の原則を重視することに慎重になることもあります。特に連れ去りの態様に違法行為を伴うようなケースでは、裁判所が違法行為を追認するかのような判断をすることには慎重になります。

親権者の指定にあたって最も重要なのは「子の利益」です。父母間で子を強引に奪い合うような事態はけっして子の利益にかなうものではありませんので、離婚協議中の別居期間に父母のいずれが子の監護を担うのかについては、夫婦間でよく話し合う必要があります。また、不本意に子を連れて別居されてしまった場合でも、強引に子を連れ去ることは決してすべきではなく、子の監護者指定と子の引渡しの審判という裁判手続を利用するのがあるべき対応になります。

親権者の指定は父母の感情的な対立を発露する場面ではなく、誰が親権者となるのが最も子の利益に叶うのかを父母がともに考える場面です。どのような環境でどのように子を養育していのが子どものためになるのか、父母で冷静に協議していく必要があります。

ところで、現在、離婚後の共同親権を導入する民法改正案が国会に提出され、衆議院で審議されています(令和64月時点)。

共同親権というのは、未成年の子どもの親権を父と母が共同して行使するというものです。もともと、婚姻中の夫婦については、父母が共同して親権を行使することとされてきましたが、離婚の際には、先に説明したように、父母のいずれかを子の親権者と指定しなければ、離婚を成立させることができませんでした。この離婚時の親権者の指定にあたって、父母のいずれか一方を単独の親権者とするのではなく、離婚後も父母が共同で親権を行使するようにするのが、共同親権の制度です。

離婚後の共同親権の是非については様々な問題点が指摘されていますが、ここでは現在提出されている法案の内容を確認しておくにとどめます。

まず、離婚する際に必ず共同親権になるのかというと、必ずしもそうではなく、法案では離婚するときには「その双方又は一方を親権者と定める」とされており、共同親権は親権者の指定方法の選択肢の一つという定め方になっています。裁判離婚のケースでも、裁判所が「父母の双方又は一方」を親権者と定めることとされています。

裁判所が親権者を定めるにあたっては、子の利益のため、父母と子の関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならないとされおり、「子の利益」という視点が強調されています。また、①父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき、②父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、父母間での協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるときには、父母の一方を親権者と定めなければならないとされており、DVがあるケースなど、共同親権が不適当と考えられるケースにおいては単独親権を選択することになっています。

婚姻中は共同親権なので、子に対する親権は基本的に父母が共同して行使することとされています。離婚後に共同親権が導入された場合も、基本的には父母が共同して親権を行使することになります。ただ、共同親権が導入されているケースでも、子の利益のため急迫の事情があるケースや、監護及び教育に関する日常の行為については、単独で親権を行使することができるとされています。また、単独で親権を行使することができない事項について、父母の協議が調わない場合で、子の利益のために必要があるときは、家庭裁判所が当該事項に関する親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができるとされています。

離婚後の共同親権の導入は非常に大きな法改正であり、慎重な議論を求める意見が根強く主張されています。今後、どのような内容の法律が成立するのか、改正法が成立した場合、実務でどのように運用されていくことになるのか、しっかりと見守っていく必要があると考えています。

Copyright © 弁護士 佐藤 敬治(札幌双葉法律事務所 所属)